歩くということ





●歩くということ
 「歩ける方はどうぞお入りください」と言うキャッチ・フレーズを一度はお耳にされているでしょう。最低限歩くことが出来れば、練習次第でフォークダンスを踊ることができます。
 フォークダンスで歩くという動作は、リズムに合わせ美しいフォームで歩くということです。それをマスターしたら、民族性、感情表現、他者とのつながりなどを味付けしていきます。
 歩き方にも当然民族性がでます。砂漠に住む人、平原に住む人、山に住む人では歩き方が異なります。農耕民族、狩猟民族でも歩き方が異なります。日本には、日本独特の文化があり、欧米の文化とは大きく異なります。明治維新後、日本は急激に欧米化し、世界大戦に負け、GHQ支配下になってからは、欧米化が加速しました。わずか、100年くらいで長く続いた民族性が根こそぎ変わるわけではなく、日本の伝統は土台では残っています。その一つが歩行方法です。まずは、日本式の歩行から欧米式の歩行に歩行方法を切り替えることからレッスンしましょう。


●日本的歩行
 元々日本は、和服と草履、下駄の文化であり、欧米のようなズボン、スカート、靴の文化とは大きく異なります。フォークロアの違いは、歩き方も変えます。地形、気候に合わせ、衣食住のあり方が異なるように、歩き方も環境や習慣に合わせて適応し、発展し、定着します。
 日本人の歩行は、和服を着ること、草履や下駄をはくこと、畳や木材の廊下を歩くことなどの条件にかなう様に発展し、定着しました。湿気の多いこと、農耕民族であることも大きな要因です。

@やや腰を落とし、少し前傾し、膝を曲げた状態から始めます。
 両手は、太もも上部に置きます。手は、歩行の際動かすことなく、ホールドします。
A支持足で身体の安定を保ち、遊足を膝を曲げたままで前に出します。
 この時、足裏を地面から離さず、地面を擦るように前に出し、足底全体で着地します。
B遊足を前に着地するとき、支持足の踵は地面から離れません。
C新しい支持足を安定させ、後ろにある遊足を前に持ってきます。
D以上を繰り返します。

 日本式の歩行の場合は、前にある支持足で踏ん張ることで駆動します。後ろの遊足を支持足に引きよせ、前に出すのです。足底は地面から離れることがなく、すり足になります。この歩行によって、屋内では、足音を立てることなく、しずしずとした動きになります。
 着物に合った歩行なので、和服を着た場合は、現在においても日本式で歩きます。なぜ和服向きかというと、手を振り、颯爽と歩けば、着物が乱れるからです。茶道や華道、能や狂言など、和服の文化では、この歩行が必要です。下駄や草履は、この歩行をしなければ、鼻緒が指の間に食い込んだり、足底から草履などが離れてしまいます。
 結婚式やお正月、成人式などでお嬢さん方が慣れない和服を着た場合、うまく歩けず困っている方を目にします。踵から歩くとせっかくの美しい着物が台無しになりますね。
 手は振らずにホールドさせるか、手足共に同じ方を出します。これは、難場歩きと言い、歩き疲れた時に両手で膝を持って歩く要領です。

●欧米式の歩行
 西洋人は、ズボンやスカート、靴を履いて歩く文化です。地面は乾燥状態で固く、屋内も靴をはくこと、狩猟民族であることから、歩行方法もそれに合わせて発展、定着しました。

1. 支持足のボールからつま先をローリングさせ、後に蹴るようにし、同時に遊足を振り子の様に前に振り出し、膝を伸ばしてかかとから着地します。
2. 新しい支持足の足底をローリングします。つまり、かかと、足底全体、ボール、つま先へと着地面を変えていきます。
3. 以上を繰り返します。

 重要なのは、支持足の蹴り出しと遊足の振り出し、足底のローリングです。ウォーキング方法を紹介する時、支持足が遊足を押し出すような動きを普通蹴りだすといいますので、ここでも同じ表現にしました。この蹴りだす動きが、欧米式歩行の駆動になります。
 振子を応用した歩行方法で、遊足を前に振り出す動きと手の振りを使って歩きます。
 この手の振りは、身体の中心線を軸とし、骨盤を回しながら遊足を振り出す時のねじれから起こるもので、手をきちんと振ることによって歩行が安定します。一直線上を歩くので、骨盤が回転します。よって、手の振りも「前にならえ」の手より内側に振ります。後ろにも同様に内側に振ることになります。基本的には、前後の手の振り幅は、同じ分だけ行います。
 一直線上を歩くとは、例えば綱渡りや平均台のように、つま先の前に踵を持ってくるのではなく、歩行後の左右の踵の内側をつなげた線が一直線になります。ファッション・モデルやエキササイズ・ウォーキングであれば、平均台を歩く様に歩いているようですが、一般的にはそこまではしません。

  日本の歩き方 欧米の歩き方
支持足 支えるのみで、蹴りだしなどの動きはない。 ボールからつま先へのローリングと蹴りだしによって駆動する。
遊足 膝を曲げたままで、足底を床に滑らせながら前方に出すことによって駆動する。すり足になる。 膝を伸ばして前に振り出し、踵から着地する。
腰の動き 腰を少し落とす。 身体の中心線を軸にして、骨盤を回転させながら遊足を前に出す。
手の動き 基本的には、太ももの上部に両手を置くのが作法である。手を振ることはない。 腰の回転に合わせて、手を振る。

●現在の日本人の歩行
 日本人は、着物文化を捨て、洋式の服を着るようになりました。ところが、スカートやズボンを履いても、歩行方法を変えるわけではなく、膝曲げ歩行で歩く人がまだまだ多いようです。
 長い歴史の中で日本的歩行をしていた者が、フォークダンスを始めてから、いきなり欧米的歩行に切り替えるのは難しいです。実際に踊っている方々の動きを見ると、和洋ごちゃまぜの方が多いです。

■変な歩き方の例
○支持足で蹴りだしていない。
○遊足の膝が曲がっている。
 美しい歩行フォームを作るには、遊足の膝を伸ばすことが第一です。その為には遊足を踵から地面につける様にします。特に女性の場合、ハイ・ヒールを履くと、膝曲がりが目立ちます。ハイ・ヒールの時でも膝を伸ばせる様に、まずは踵の低い靴から練習しましょう。
○踵から着地していない。
○手の振りが変。
 手の振りは優雅さや美的イメージをアピールするために特に気をつける必要があります。多くの日本人の手の振りは、ほとんど機能していません。足の振りと手の振りを使って歩行していません。特に女性の振りに問題があります。通常は、前後の手の振り幅は同じなのですが、女性は後に力なく振る方が多いです。力なく振っているため、後ろに振ったとき、手首から先だけがさらにゆらりと振れ、見た目が非常に悪いです。
○上下動をしながら歩く
○すり足
○猫背

 私がフォークダンスを始めた頃は、歩行の練習から始めました。合宿などでは、一時間くらい歩行練習をしていました。昔は、難場歩きなどの知識はありませんでしたが、日本的な歩き方から離れるため、膝を伸ばし、支持足で蹴りだす歩き方を練習しました。私はどんくさいので、なかなか意味が分からず苦労しました。右足をヒール、左足はトーでホールドした「中間ホールド」というものも教えていただきましたが、なかなか出来ませんでした・・・
 最近は、テレビなどでも歩き方のレクチャーがあり、多くの方に知られるようになりましたが、フォークダンスを踊っている際も上記の変な歩き方をしている方を多く見ます。
 歩行練習は、基本の基本です。道を歩くときも、欧米的歩行で歩いてみることをお勧めします。

●欧米のウォーキング・ステップ
 踊りは、歩行よりも難しいので、さらに練習が必要です。欧米の踊りの場合、ベースは欧米歩行ですので、まずは欧米式をじっくりと練習し違いが確認されてから踊りのステップに入った方がいいでしょう。中途半端だと、日本式歩行で欧米の踊りを踊ることになってしまいます。

■ウォーキング・ステップ
○支持足のボールからつま先をローリングさせ、後に蹴るようにし、同時に遊足を振り子の様に前に振り出します。
○遊足を前に出す時は、膝から出る様にします。すなわち、後ろから支持足の横を通り過ぎるまでは膝から動きますので、膝を曲げ、膝から下の力を抜きます。遊足が支持足の横を通過したら、膝から下を振り、膝を伸ばします。
○遊足の足の甲を少し伸ばす様にし、床につま先を滑らせ、ボールで着地します。
○新しい支持足の足底をローリングします。つまり、ボール、つま先へと着地面を変えていきます。この時、後ろにあった遊足を支持足の横に触れるように前に出します。

 ヒールからのステップは、「下駄をはく」という言い方をし、あまり優雅なダンスには使われません。基本的には、いつも、つま先は床との水平線より下にします。もちろん、ヒールから着地する踊りもありますが、より難しい動きであるボールからのステップを心がける方が練習になります。
 では、実際に音楽にあわせ歩いてみましょう。
 ボールで着地すると、膝が曲がりやすいので膝と足の甲を伸ばすことを心がけます。歩幅を小さくして練習した方が効果的です。
 頭の頂点に糸をつけて吊ったイメージを作り、その糸が先導して歩くイメージです。つまり、前方上部より吊られた糸によって引っ張られて動くイメージで歩きます。
 ここでのステップの説明は、あくまでも基本の基本の動きです、各国のフォークダンスには、それぞれの基本の動きがありますので、そのステップのベースとして以上のことを確認して頂ければ幸いです。

2008-10-15 001
2008-11-02 002