立つこと







立つこと
ダンスは、音楽のリズムに身体を合わせて動かします。動き始めた状態、動きを連続させている状態、止める状態、ゆっくり、速く、直線的に、曲線的に、回転して動くことによって、音楽に込められたテーマを表現します。

このとき、まず押さえておくべきことは、「立つ」ということです。止まっている状態であっても、音楽が鳴っているのであれば、それはダンスの一部です。すぐに動くことができるように、スタンバイしておく必要があります。

ダンスとして立つことは容易なことではありません。全身を意識し、ほどよく緊張していなければ、駅のホームでダラリと立っているのと同じレベルになってしまいます。リラックスして普段通りに立つ踊りもありますが、普段通りの立ち方は誰にでもできますので、本格的にフォークダンスを習うのであれば、まずはきちんと立つ練習が必要です。最初のレッスンとして、立つことをテーマにします。

立つことのポイント
 1. 足底の体重を支える場所を意識する
 2. 脚を開くことを意識する
 3. 身体の中心を意識する
 4. 力を抜く
 5. お尻をきゅっと締める
 6. 背筋を伸ばす
 7. 頭を立てる
 8. 胸を張る
 9. 糸で吊られたイメージを持つ

ダンスは、誰もが美しくスマートに踊りたいし、美しい踊りは、見ている人々にも良い感じを与えます。美しい踊りを踊るためには、まず、姿勢を正して立つことが必要です。初めてダンスを踊ろうとする時、身体が緊張して、身体中に力が入り、あごが前に突き出たり、肩が上がったり、背中が丸くなったり、後ろに反ったりなど、その人それぞれのくせが出ます。そのくせは、その人の長年の生活習慣からくるものですから、すぐに直せるものではありません。

姿勢を正して立つということは、見た目の良さだけでなく、踊りに入る準備にもなりますので、ポイントを整理しながら、きちんと立ってみましょう。



1. 足底の重心
足底の体重をのせる位置は、踊りによって異なりますが、大きく分けて4か所です。

 ①かかと(ヒール)
 ②ボール
 ③つま先(トゥ)
 ④足底全体

①かかと
ヒールの位置、正確にいうとくるぶしの下あたりのことです。リラックスした状態で立つときは、この位置に体重をのせます。踊りの最中はこの位置で立つことはありませんが、音楽が鳴るまではこの位置で立つことが多いようです。太もも、ふくらはぎの筋肉を使うことなく立ちます。

②ボール
ボールとは、足の親指と人差し指のつけ根にあるふくらんだ部分のことです。多くのダンスでは、体重をボールにのせて立ちます。足裏全体が床に軽くついた状態で、ボールに重心を置くスタイルと踵を床から浮かしてボールだけで立つスタイルがあります。

③つま先
トゥの位置です。踵を完全に上げてつま先で立ちます。ワルツのライズ、アップ、スコットランドの踊りなどで使われます。完全なつま先立ちは、足の甲を起こした状態になります。つまり、膝からつま先までを一直線にします。この状態で立ち続けることは、フォークダンスではあまりありません。
コーカサス地方には、世界でも珍しい男性の足の指の背によるつま先立ちがありますが、これは、テクニックの伝承と訓練、そして柔らかい素材のブーツを履いてこそ可能な技です。素人には難しいので、軽はずみに真似をしない方がいいでしょう。

④足底全体
足裏全体に体重をのせる立ち方です。

 
2. 脚を開く(ターン・アウト)
脚を開くというのは、足と足の間を開けるという意味ではありません。踵を閉じた状態で、つま先を60度や90度に開くことです。踊りによって、脚の開き方は様々ですが、多くの民族の踊りでは、踵を閉じ、脚の付け根(股関節)からを外方向に約60度に開いて立ちます。
 
この60度のキープは、踊りにおいて非常に重要です。美しい脚の線が出るだけでなく、身体の向きを変えるとき、回転のとき、スムーズな足の運びをつくります。
 
脚を外に開くことをターン・アウトと言います。踊りにおいて重要な基礎です。つま先のみを60度に開いて立つのではなく、股関節の脚の付け根から外回しに脚全体を回転させ、太もも・膝・つま先を60度に開きます。太もも・膝・つま先は同じ方向を向きます。
 
スコティッシュでは、脚を90度に開きます。このときに、本を床に置き、角を使って足を90度に開く練習をする人がいますが、この方法は効果的ではありません。この方法だと足首から先だけを開くことになってしまうからです。脚をひねることになりますので、動き始めればすぐに元に戻ります。90度をとるとしたら、膝の所に本を置いた方がいいでしょう。そうすれば、股関節から脚が回って90度を作れます。
 
ただし、慣れていない人が無理に股関節を回すと危険です。いきなり90度に開くのではなく、90度は今後の課題にして、最初は60度を維持しましょう。60度でも難しい方は、30度でもOKです。
 
右脚は右回し、左脚は左回しに回転させるのが股関節の外回しです。この外回しは、ターンの時に重要ですのでストレッチなどで柔らかくしておくことが必要です。
 
踊りによって、脚の開き方は様々です。パラレル(並行)にするもの、30度、60度、90度、180度など、脚の開き方はその踊りのスタイルを決定する大切な要素です。しかし、平均的なフォークダンサーは脚の開きを軽視する傾向があります。一朝一夕には身に付かない要素ですので、日々の練習が必要です。
 

3. 身体の中心を意識する
身体を安定させる点、つまり重心を意識して立ちます。重心を意識していなければ、身体がぶれて不安定になりますので、早々に自分の重心を見つけておきましょう。

私たちの身体の重心は、「丹田」と呼ばれるところです。丹田は、おへその少し下の腹中にあります。立った状態で、おおよその位置を意識して、両手を腰にとり、膝を屈伸させたり、右左に身体を揺らしたり、腰を前後に振って、重心の位置を探ってみましょう。丹田をきちんと意識できていれば、身体のふらつきがなくなり安定します。さらに腰を右回転、左回転という風に回して、自分の重心が丹田にあることをしっかりと確認してみましょう。
 
丹田を確認したら、丹田で呼吸するイメージで、鼻から空気を送り込みます。鼻で息を吸い込み、お腹がふくらんだら、数秒間息を止め、口からゆっくりと息を吐きます。そのとき、舌を上の歯ぐきにつけ、わずかに開いたすき間から少しずつ息を吐く様にします。これを丹田呼吸と言います。丹田呼吸をしながら、身体の筋肉をゆっくり動かす練習をすると丹田の意識がより深くなります。これは、ストレッチやヨーガの基本です。
 
フォークダンスなどの準備体操・整理体操には、このストレッチが向いています。丹田意識は、武術、格闘技、スポーツ、ヨーガ、瞑想、座禅などで重視されます。身体を安定させるこつは丹田にあります。

4. 力を抜く
立ったとき、身体の力を適度に抜くことが必要です。緊張しすぎると、肩や両膝に力が入り、ぎこちなくなります。首、手首、肘、肩、肩甲骨、腰、股関節、膝、足首など、動きを作るところはリラックスさせます。これらの部位に力が入っているとブリキのロボットのようで、あまり格好がよくないし、何よりも疲れます。

音楽が鳴ったら、ヒールを少し上げてボールで立ち、脚をターン・アウトし、自分の中心(下腹部の丹田)を意識します。そうすると、ほとんどの方は膝小僧が上がっています。それは、膝に力が入っている証拠です。膝の力を緩めて、膝小僧を下ろします。膝に力が入っているときは、足首にも力がはいっていますのでリラックスさせます。踊りとして立つ場合、緩みすぎず、張りすぎずが大切です。「ふー」と息を吐いて程よくリラックスしましょう。


5. お尻をきゅっと締める
 
無駄な力を抜いたら、お尻の穴を引き上げるようにして、きゅっと閉じます。このことで、丹田への力がこもり、重心が安定し、姿勢がよくなります。


6. 背筋を伸ばす
リラックスして立つ場合は、踵(踝の下)に体重を乗せます。足底全体を床につけて、心もち親指を浮かせると楽です。こうすることによって、踵の上に足の骨が立ち、骨盤がのり、骨盤の上に背骨が立ち、その上に頭蓋骨をのせることになります。筋肉をほとんど使わず、骨格だけで立ちますから楽です。ただし、この場合も股関節から外向きに脚を回すこと(ターン・アウト)、丹田意識、膝を緩めることは忘れてはいけません。膝を外に向け、下腹に意識を持ち、膝を少し曲げるだけでずいぶんと楽な姿勢になります。

踊りとして立つ場合は、これから踊り始めるための準備をしますので、ボールに体重をのせ、脚を開きます。一度息を吐いて緊張を緩め、お尻を締めて丹田に力を入れます。

以上のことで下半身の準備ができました。次は上半身です。お尻をきゅっと上げ、さらに、みぞおちを上に引き上げて、上半身を整えます。そうすることで背筋が伸びます。


7. 頭を立てる
首筋の後ろを意識し、背骨の上にきちんと頭を立てます。あごを引いた状態です。


8. 胸を張る
みぞおちを引き上げて背筋を伸ばし、頭をきちんと立てたならば、次は胸を張ります。胸を突きだすのではなく、左右の肩甲骨を寄せるようにすれば、胸を開くことが出来ます。そのとき、肩に力が入ってしまいますから、左右の肩甲骨を寄せながら、肩の力を抜き、少し下に引く様にすると落ち着きます。


9. 糸で吊られたイメージを持つ
頭の頂に糸をつけ、真上に引き上げた状態をイメージします。実際に立った状態で、頭の頂点の髪の毛を上に引っ張ってみると感じが分かると思います。


まとめ
 
踊り始める前は、踵に体重をのせ、脚を少し開き、丹田を意識し、上体や膝の力を抜き、背筋を伸ばしてあごを引き、胸を張って、上から吊られたイメージを持って立ちます。これだけのことを初心者の頃、いきなり出来るはずがありませんが、注意しながら身体に覚えこませなければ、いつまでたってもきちんと立つことが出来ません。日々の練習が必要です。